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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)6787号 判決

原告

栗原尚

右訴訟代理人

佐藤義弥

外四名

被告

株式会社マルマン

右代表者

片山豊

右同

片山茂喜

右訴訟代理人

大西保

外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  双方の申立

一  原告

被告が昭和四六年五月二八日付定時株主総会において、第二六期(自昭和四五年四月一日至同四六年三月三一日)の利益処分案中役員賞与金を六〇〇〇万円とする案を承認した決議はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  双方の主張

一  原告の請求原因

(一)  被告は、資本金四億円、発行済株式総数八〇〇万株うち普通株式六四〇万株、優先株式一六〇万株(優先株については定款により議決権を与えていない)の株式会社であり、各種喫煙器具の製造並びに販売等を業とするものである。

(二)  原告は被告会社の株主である。

(三)  被告会社は昭和四六年五月二八日第二六回定時株主総会(以下本件株主総会と略称する)を開催し、第一号議案として、前記申立記載のとおりの利益金処分案を上程したが、右案中には同申立記載のとおり役員賞与案が含まれており、右議案は賛成多数をもつて原案どおり承認の決議がなされた。

(四)  ところで、被告会社の役員は、右承認の決議中役員賞与に関する部分については、これと特別の利害関係を有する者にあたるから、その所有にかかる普通株式に基づく議決権を行使することができないのに拘らず、これを行使した。したがつてその決議方法は商法二三九条五項に違反しているから、右決議の取消を求める。

二  被告の答弁

(一)  原告の請求原因(一)ないし(三)記載の事実はいずれも認める。

(二)  同(四)記載の事実を否認し、その主張を争う。

三  被告の抗弁

被告会社の本件株主総会に出席した総株式数は五一〇万九、〇二〇株であり、そのうち右議案に反対したのは原告のみでありその所有株式は一〇〇株に過ぎないから、被告会社の役員らの持株総数四一五万三、二二〇株を除くと議案の賛成株式は九一万五、七〇〇株となる。したがつて、右決議に原告主張のような瑕疵があるとしても、その瑕疵は決議の結果に影響をおよぼすものではないから、原告の請求は棄却されるべきである。

四  被告の抗弁に対する原告の答弁

抗弁事実中、本件株主総会に出席した総株式数および被告会社の役員らの総所有株式数が被告主張のとおりである。ことは認めるが、その余は否認する。

本件株主総会における決議の瑕疵は、出席した総株式数五一〇万九〇二〇株中被告会社役員の所有総株式はその約八〇パーセントを超えるもので、その者らの議決権の行使は他の株主の議決権行使に影響を与えるものであるから、本件決議の結果に影響なしとはいえないし、また、瑕疵自体も極めて重大であつて、右決議の取消は免れ難い。

第三  証拠〈略〉

理由

一原告の請求原因(一)ないし(三)記載の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二次に、原告の請求原因(四)記載の事実につき考えるに、会社役員は、自己ら役員に支給する賞与額の決定を内容とする株主総会の決議については、商法二三九条五項所定の特別の利害関係を有する者にあたるので、右決議につき株主としての議決権を行使することはできないと解すべきところ、〈証拠〉によると、本件株主総会においては、第二六期(自昭和四五年四月一日至同四六年三月三一日)における決算書類承認案と、同期における役員に対する賞与額を金六〇〇〇万円とする旨の利益金処分案とが一括上程され表決されたこと、右利益金処分案の表決について、株主であり、かつ、役員である七名につき右決議の特別利害関係人にあたるとして特に除外しなかつたことを認めることができ、右認定に牴触する証人兼武盟証人吉川浩正、被告会社代表者本人の各供述部分は前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によると、本件株主総会における右利益金処分案の決議につき、特別の利害関係を有する役員である株主の議決権行使を制限しなかつたと解しうるので、その決議方法は商法二三九条五項に違反するといわざるをえない。

三そこで、被告の抗弁につき考えるに、〈証拠〉によると次の事実を認めることができる。

本件株主総会に出席した総株主数は委任状によるものも含めて二九名、その株式数は五一〇万九〇二〇株であり、そのうち前項の利益金処分案につき特別の利害関係を有する役員七名の所有株式数合計が四一五万三二二〇株であること(但し、本件株主総会における出席株式数およびそのうちの役員の所有株式数については当事者間に争いがない)、したがつて右役員らの所有株式数を差引いた出席株主二二名の所有株式数が九一万五、八〇〇株となり、そのうち原告が一〇〇株の株主であること、原告は本件株主総会における前項の決算書類承認案と利益金処分案の一括審議に際して、利益処分案に対して役員賞与額が高額に過ぎるとの反対意見を表明したが、同総会の議長であり、かつ、被告会社の代表取締役である片山豊からこれに対する弁明がなされたうえで、他に右案に対して反対する者の意見表明を求める旨の発言がなされたこと、しかるに、右発言に対して特に反対の意見を表明するものがなかつたので、右議長は、右両議案に対する表決をすることとし、議場に賛否を求めたところ、株主席から賛成との多数の発言があり、特に原告以外で反対の発言および態度を示すものがないところから賛成多数によつて右議案が承認可決されたものとして処理したこと、なお、原告としては、議長が右利益金処分案の表決に際して、役員らを特別に利害関係にあるものとして株主としての表決権行使制限の措置をとらずに賛否を求めたことが商法二三九条五項に違反することには気付いていたが、そのことについては異議を述べなかつたことを各認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、株主総会における決議の方法に瑕疵がある場合であつても、その瑕疵が決議の結果に異動を与えず、しかも、それ自体軽微であると評価される場合においては、右瑕疵を理由とする決議の取消請求を棄却することができると解すべきところ、右事実によると、本件株主総会における利益金処分案の決議に反対したものは原告のみであるから、右総会の出席株式総数から、役員らの特別利害関係人としての所有総株式数を差引いた九一万五、八〇〇株中原告所有の一〇〇株を除くと、右利益金処分案に対する賛成株式数は九一万五七〇〇株となり、したがつて、本件株主総会における利益金処分案の決議方法につき前項認定のとおり株主である役員らを特別利害関係人として表決から除かなかつた瑕疵があつても、右瑕疵は右議案の承認決議には異動をおよぼさないと解しうるし、また、原告主張のように、確かに、出席した総株式数の八〇パーセントが役員所有株ではあるが、それのみではその議決権の行使が他の株主の議決権の行使に影響を与えたとは認め難く、他に影響ありと認めうるような証拠もない。更に、右瑕疵の軽重については、商法二三九条五項の立法趣旨が、利害関係を有する株主の議決権行使の結果、利害関係のない株主の利益の害されることを避けるために利害関係を有する株主の議決権の行使を制限しようとするものであるから、その議決権の行使が表決から除かれても前記のとおり九一万五七〇〇株対一〇〇株の関係で決議の結果には異動をおよばさないと認められる限り、原告ら利害関係を有しない株主の利益が害されることもないし、また、右法条の違反によつて原告ら利害関係を有しない株主の議決権の行使自体が阻害されたり、本件総会における正常な運営自体が阻害される筋合のものでもないから、出席した総株式数の八〇パーセントが役員所有株であつたという一事をもつてその瑕疵が重大なものと評価することができず、以上の事情からするとその瑕疵は未だ軽微といわざるをえない。

四、よつて、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(山口和男)

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